七海の三日間

五条に恋をした。しかも二度目の恋だ。
七海は学生のとき、五条が好きだった。けれど五条相手に告白する勇気もなく悶々と過ごし、そうして呪術界から離れると決めたとき、全てを置いていく覚悟もした。これからの自分が持っていてはいけないものだと思ったからだ。
しかし何の因果か出戻りをして、七海は懲りずに五条を好きになってしまった。変わったところも変わらないところも、普通なら欠点となるところも可愛く見えてしまって、七海は好意を失くすことを諦めた。
ついでに、信頼できる後輩という立ち位置があれば良いという、消極的な打算は捨てた。その位置には七海以外の誰かもいる。七海は、五条にとってのたった一人になりたいという願望を諦めることも、諦めたので。
そうと決まればと、七海は努力した。いわゆるアプローチだ。最初は意識してもらうところから、行く行くは好意を向けてもらえるように。これが難航した。流石の七海でも何度か挫けそうになるほどだった。
しかし唐突に、七海の努力は実を結んだ。

「返事一つじゃねーか!」
「返事ははいかイエスで結構ですよ」なんて余裕ぶった七海の言葉に、五条は吠えた。
負け犬の、と称されるようなものではない。顔は赤くて声は揺れていて、七海からすれば可愛らしいとしか言い様がないものだった。どちらかといえば、仔猫が必死に毛を逆立てているようで、七海は頬が緩むのを抑えられない。
「ところで五条さん、私には言ってくれないんですか」
「う、や、でも、オマエもう知ってんだろ」
「そうですね。でも五条さんから直接聞きたいです」
意識して声のトーンを落として顎を引いて、わざとらしく落ち込んでいる様子を装う。年下らしいしおらしさというのが、殊の外、五条にはよく効くのだ。
案の定、薄く口を開いた五条はそのまま言葉を呑み込んで、七海と同じく視線を足元に逃がす。しかしすぐに顔を上げた。
「……好きだよ、七海」
「私もです……五条さん、愛しています」
そっと下ろしたアイマスクの先、いつもは青空のように晴れ渡っている目はたっぷりの水分で潤んでいた。