「祓除は任務範囲にありませんよ」
事務所への帰りの車内、珍しくサングラスを外したままの助手――五条はご機嫌でハンドルを握っていた。鼻歌でも口ずさみそうなその態度を、呆れ顔の所長――七海が嗜める。いつもの二人の応酬だ。
「でも祓えるなら祓っといたほうが良いだろ」
「それはそうですが……」
反論をしたいのに思い浮かばないと、ムニムニと動く七海の唇が語っている。意地を張る子供のような表情もよく見えるから、五条は運転席と助手席で隣り合う座り方を気に入っていた。右ハンドル限定で。
「それにほら、報告は僕の名前で上げとくからさ」
「オマエに迷惑掛けないよ」という親切心のつもりだったが、七海にとっては余計なお世話だったらしい。隣の呪力にざわりと白波がたって、瞬き一つの内に収まった。六眼でもないと気付けないくらいの違和感だったが。
「アナタはそうやってすぐ、面倒を引き受ける」
何だか前にも聞いたことがある言葉だ。しかし五条からすれば、この程度のことは別に面倒というほどではない。どうせ祓わなければならない呪霊だし、実際に祓った五条が報告を上げるのも当然のことだ。などと考えつつも、本音は「恋人のためなら面倒でもない」なのだから、我ながら現金なことだ。
「……私は頼りないですか」
ウンウンと内心で頷いていたら、七海がポツリと呟いた。その声は重たく沈んで聞こえる。運転席に収まってなければその表情を確認できたのにと、ハンドルを握る手に力が籠もった。
「そ、んな深刻な話じゃなかっただろ。今」
「ちゃんと運転に集中してくださいよ」
「いやオマエ、そんなこと言われてもさあ……」
ドアポケットに無造作に突っ込んでいたサングラスを、五条は徐ろに取り出す。頬も耳も隠れないが、ないよりはマシだろう。
「何でも出来るGLGの僕に対しても、七海が労ろうってしてくれてるのは知ってるよ。オマエ、恋人思いだもんね」
「……言い方」
「じーじーつ。でもさ、オマエがそうやって思うのと同じくらい、僕もオマエのために何かしてやりたいの」
「はあ……」
「……こいびとなんだから」
言ってしまえば事実婚の状態であるというのに、五条としてはこの単語を使うのが小っ恥ずかしくて仕方ない。家入に聞かれれば「カマトトぶるな」とでも言われそうだ。五条の照れは七海に伝染り充満して、車内には生温い沈黙が落ちた。