五条の秘密2

五条は七海の隠し事を知っている。正確に言えば隠し事をしていることを察しているだけで、内容は見当もつかない。
そんな七海に対して五条が不満を抱えることはない、というと嘘になる。自分は全て打ち明けたのにと、理不尽な考えが過ることもある。
――なんて気にしていたからか、五条は夢を見た。渋谷駅を当て所なく彷徨う、ただそれだけの夢だが。
夢が始まる場所はバラバラで、けれど最後に辿り着く場所はいつも同じだ。その場所に近付くまで気付くことはない。なのに階段を降り切って前を向くと、既に見慣れてしまった改札が目に入るのだ。そこから先、五条の足は勝手に動く。普段通りの歩幅と足の速さで歩いて、そうして、改札の手前にある黒い箱の前で静止する。
その箱が何なのか、これまた五条は知らない。手掛かりすらもない。ただ直感で、目の前の箱と七海の隠し事は関係があるのだろうと予想している。気にならないわけが無いが、その見た目から触れるのを躊躇していた。今までは。
ス、と腕を伸ばす。と同時に、強い力で腕を掴まれた。見える部分全てが火傷に覆われている腕は、見覚えがあるか否かを判別できる状態ではない。けれど五条は、それが七海の腕だと確信した。
七海は今、どんな表情をしているのだろうか。好奇心のままに振り向こうとする五条を咎めるように、掴まれた腕の骨が軋んで悲鳴を上げた。
腕に込められた力の強さから七海の拒絶と懇願を感じて、五条は振り向くのをやめて、箱に伸ばした手も引っ込めた。五条は何も、七海を傷付けたいわけではない。手を引っ込めるとともに、周囲はピントがずれるようにぼやけていった。もうすぐ目が覚めるのだろう。
覚醒する直前、五条は「それでいいよ」という誰かの囁きを聞いた気がした。