いつも、デザートは本職の七海に任せきりだし、朝と夜のご飯を作るのも七海が買って出ることが多い。昼はそれぞれで用意するし。好きでやっているからと七海は笑って言うが、五条としては、頼りきりなのは気が引けてしまう。
とはいえ、パティシエに手の込んだ料理を振る舞うのも緊張するから、五条はカスクートを作ることにした。カスクートとは何かを調べるところから始まったのだが。
五条が用意したのは、ベーコンとサーモンがメインの二種類だ。フランスパンを二本は多いだろうと、半分に切ったものを二人それぞれの皿に乗せている。見栄えの良い断面を作るのには、流石の五条も苦労した。
ガブリと豪快に一口を収めて、無言で咀嚼する。自分で作ったものだから感動もないし予想通りの味だが、そこそこの出来ではあると五条は自賛した。何と言っても素材がいいので。けれど対面に座る七海の感想が気になって、ちらりと視線だけで様子を窺う。
無心で食べる七海の姿が、答えのような気もした。けれど言葉でも聞きたくなって、五条は口を開く。
「美味しい?」
「……美味しいです、とても」
五条の問い掛けに、七海はハッとしたように感想を述べた。少しバツの悪そうな顔をしているから、本当に夢中になって食べていたのだろう。五条は微笑ましささえ感じてしまう。
「何故、カスクートだったんですか?」
「え、前言ってたろ。好きだって」
「……そう、ですね。いえ、覚えてくれてるとは思わなかったので」
言葉を濁す七海を問い詰めるか、五条は一瞬迷う。けれど「ありがとうございます」と笑う七海があんまりにも幸せそうだから、胸に浮かんだ疑問に、五条は気付かないふりをすることにした。