チーズケーキ

今日のデザートはチーズケーキだ。サクサクホロホロのタルト生地と濃厚なチーズフィリングの美味しい逸品だ。
七海は、五条に出すデザートは一手間も二手間も加えた特別製にすることが多い。けれどこのチーズケーキは、七海のパティスリーで出しているものと同じレシピで作っているらしい。
「僕、七海のチーズケーキが一番好き」
「それは光栄ですね」
幾度となく告げた言葉だから、七海も慣れた様子で受け流す。けれど五条の体質を知らない七海ではないので、大袈裟な言葉として聞き流しているわけではない。
「甘いチーズ食べたの、初めてだったんだよ」
「知っています」
七海に見つめられて、その視線が手元に向けられて、五条は七海に促されていることに気付いた。丸く小さく作られたチーズケーキの端を切り崩して、五条は頬張る。
「おいしーよ。七海のが世界でイチバンだね」
七海のパティスリーに吸い寄せられるように入ったあの日、甘いお菓子というものを初めて食べたあの日の味と、全く同じ味だ。あの感動は色褪せることなく、何度食べても同じ美味しさと感動を味わうことが出来る。
「いろーんなお店のチーズケーキを食べた僕が言うんだから間違いないよ」
「そうでしょうね」
五条は今まで、デザートといえばチーズケーキばかりを選んでいた。会社の同僚から学生時代の友人まで、五条が無類のチーズケーキ好きと誤解している相手は多いだろう、という程だ。けれどそれはチーズケーキが好きというわけではなく、チーズケーキのほうがマシ・・というだけの話だった。
しかし今は違う。
七海のお陰で様々なお菓子を美味しく味わえるようになって、その上で、格別にチーズケーキが好きだと断言している。そう言い切れることが何よりもの幸せだと、五条は七海のお菓子を味わうたびに再確認していた。