バーベキュー

今日の昼ご飯はバーベキューだ。五条は何故だか、七海のパティスリーのスタッフが集められたバーベキュー会場にいる。
バイトの少年少女の中には見覚えのある子もいるが、基本的には従業員と客の距離感でしかない。自分一人が見事に浮いているような気がして、とりあえず五条は七海のそばに張り付くことにした。
「五条さん、あちらに混ざってきては?」
「あちら」と七海が示すのはバイトの子たちが固まっている場所だ。冗談だろうかと七海の顔を覗いてみるも、七海は至って真面目な顔をしている。どうやら茶化しているわけではないらしい。
「顔と名前知ってるってだけで邪魔しちゃダメでしょ」
「彼らは話したがっていると思いますが……」
そうだろうか。五条は大いに疑問を抱く。
五条は自他ともに認めざるを得ないイケメンなので、連絡先の交換を申し込まれることは日常茶飯事だ。けれどバイトの子たちにはそんな様子はなくて、きっと、店長の友人だから社交辞令を言ったのだろう。
「若人の輪にグイグイ行くのはむーりー。僕、アラサーだよ?」
「まぁ……彼らとは一回り離れていますね」
テキパキと肉と野菜を焼き始める七海の手元を、五条は隣に引っ付いて覗き込む。いつもなら人目を気にして離そうとするが、今は肉と野菜の焼き加減を注視しているらしく、文句を言う素振りはない。それを良いことに、五条は七海の肩に顎を乗せた。
「炭のところに何入れてるの?」
「さつまいもです。甘くて美味しくなるらしいので」
「石焼き芋みたいになるのかな」
「あとでリンゴもやってみましょうか」
「焼きリンゴ? 美味しそう」
ジュウジュウと肉の焼ける香ばしい匂いを嗅ぎながら、五条の興味はさつまいもとリンゴに移りつつあった。そんな五条の様子を遠くから少年少女が見守っていることに、本人だけが気付いていない。