ナポレオンパイ

今日のデザートはナポレオンパイだ。またはスコップミルフィーユともいう。
五条はプレゼントの包み紙を開く心持ちで、ガラス製のパウンド型にスプーンを突き立てた。ザクリ、とサクサクのパイ生地と挟まれたイチゴ、たっぷりと詰め込まれたカスタードクリームを一息に貫いて、スプーンの先は底にあたる。
ずっしりと重たくなったスプーンを持ち上げると、その上には層が崩れたミルフィーユが乗っている。大きく開いた口で、こぼすことなくスプーンを口に招き入れた。途端に口の中に三者三様の味と食感が広がって、五条は思わず目をギュッと瞑る。
「おいし〜〜〜!」
「それは良かった」
向かいに座る七海は、ブラックコーヒーと、五条の器から少し分けたミルフィーユをお供にしている。そのセットに、こんなに美味しいのにあれだけしか食べないのは勿体ないと、五条はいつも思ってしまう。
けれどそもそもこのミルフィーユを作ったのは七海なのだから、味見や試作で満足しているのかもしれない。それに七海の取り分が少なければ、その分、五条の食べられる分が増えるのだ。少し申し訳ないと思いつつも、役得だなと五条は喜んでしまう。
「これはお店に出す?」
「いえ……器代が嵩みそうですし、ミルフィーユは既にありますから」
「そっか、これ食べられないんだ……」
七海のパティスリーで扱わないとなると、次に食べられるのは七海の気分が乗ったときになる。つまり未定ということだから、しっかりと味わわなくては。
「リクエストしてくれれば、いつでも作りますよ」
「えっいいの?」
五条の声が弾む。きっと声と同じような表情をしているだろうということは、五条も自覚している。
けれど五条の子供じみた反応を見て、七海はことさらに嬉しそうに笑うので五条にとって問題はない。