白い花も青い花も、七海が触れればたちまちに溶けて消えてしまう。消える一瞬手前、ほのかな温かさと淡い光を纏う様は言い表せないほど綺麗だ。それにあの人の声も聞こえる。けれど消えてしまうのはそれ以上に残念だから、七海は出来るだけ触れないように身を縮こまらせていた。
そうやって気を付けていても、七海の足元が花で埋め尽くされることはない。一定の時間ごとに消えているのだろう。
長い長い、気の遠くなるような間、七海はずっと降りしきる花を眺めていた。他に出来ることもなかった。そうして眺めるうちに、花の量が減っていることに気付いた。段々と花の降っている時間が短く、少なくなっていたのだ。きっと、地上では七海の体感するよりずっと長い時間が過ぎたのだろう。彼岸にいる七海にはわからないことだけれど。
七海が彼岸に渡ってすぐより降っていた花は、その後も数を減らしていく。足元には、花の山が築かれなくなって久しい。
ふと、あの人の声が聞こえる。近頃は花も降らなくなっていたのに珍しいと辺りを見渡せば、見慣れた人影があった。
幻覚かと思った。
けれどその人影は近付いてきて、猛スピードで、おまけに大きく両腕を振っていて。とてもこの場に似合わない仕草に、七海は「らしいな」と笑いそうになる。
ドンと、花とは比べ物にならない重量と勢いでぶつかられて、けれどその人は光りもせず消えもしなかった。腕の中の温かい体をギュッと抱き締めながら、七海はらしくもなく顔一杯に笑った。