管理人の話

イケメンの外人さんが入居した。
随分と流暢な日本語で……と思っていたら、七海という苗字らしい。クォーターではあるが、日本生まれ日本育ちの純日本人だそうだ。驚いた。
程よく雑多な住宅街の一角でアパートの管理人を勤める神尾は、いつもとは毛色の違う入居者の七海を、思わず無遠慮に眺めてしまった。神尾の視線にピクリと眉を動かした七海は、しかしそんな視線にも慣れているのか、何も言わなかった。七海の入居する部屋は、近くの全国展開企業支社が社宅として借り上げている二部屋の一つだ。転勤の多い企業らしく入居者は頻繁に変わるが、社宅で問題を起こす者は少なく、管理人としては非常に助かっている。
家具は備え付けのため、手荷物一つでくる入居者が多い。七海も例に漏れず、荷物は大きいスーツケースと紙袋一つだけだ。その紙袋の中から有名和菓子店の名前入りの紙袋をさらに取り出して、七海は折り目正しく神尾に差し出す。
一応の管理人として引っ張り出され、軽い自己紹介を済ませれば入居の挨拶など終了だ。七海は愛想が良いとはいえないが穏やかで、しかし異様な圧を感じ取ってしまった神尾は、それだけのことで疲れ果ててしまっていた。