紫色の爪 4

「ところで、あの人にどう説明したんですか」
ソファに腰掛けたまま、所長――七海は重々しく口を開いた。頭上に暗雲が立ち込めていそうな剣幕だ。結局辞退された鈴を片付けていた助手――五条は、顎に手を添えて考えるポーズを取った。大方、いつも通りにその場で思い付きのままに喋ったからよく覚えていないのだろう。五条は指折り数え出す。
「僕は助手で、すぐそこのビルの三階でやってて、心霊現象オカルトの相談も大丈夫だよって」
「別に普通じゃない?」と三本立てた指を見せる五条に、七海は確かにと頷いた。ならばそれ以外のところで余計なことを言ったのだろう。
「あ、それと花も買った」
そう言って、五条は事務所入ってすぐにあるチェストを指差す。そこには青い花を中心に白と黄色のカスミソウで飾られた花瓶が置いてあった。
「そういえば」
ニヤリと、まるでイタズラに成功した子供のような顔で笑う。もっとも、彼の仕掛けるそれはイタズラ・・・・なんて呼べるほど可愛らしいものではないが。
「そのときに七海のこと、いーっぱい喋っちゃった」
「何してるんですか、アナタは……」
それであの・・顔かと、七海は納得した。と同時に少し呆れた。端々に姿を表した生温い視線に声をつけるなら「ああ、そういう……」だ。実際、二人はそういう・・・・関係にあるから否定はできないが、何とも言えない含みを持った視線を向けられるのは気恥ずかしさが勝る。五条はそうでもなさそうだけれど。
「だってさあ、最近は硝子も話聞いてくれなくてつまんないんだよ」
「それはアナタが毎回……いえ、そうでなくて……」
藪蛇をしそうになって、七海は慌てて言葉を切る。五条の惚気がウザいというのは当の家入に聞かされた愚痴だが、五条の話を惚気と認めるのは恥ずかしいし癪だ。場の空気を取り繕うために、七海は咳払いを一つする。
「とにかく、あまり話しすぎないように。私達が噂になるのは困ると言われたでしょう」
咳払い程度では誤魔化されてくれない五条は、随分と嬉しそうな顔でイイコの返事をした。