『怪奇現象調査所』というドアプレートが下げられた事務所内。一番の上役が座りそうな豪華な回転椅子にのびのびと座った助手――五条は、にんまりと笑っている。
「コックリさんは無事に祓ったし、僕の有能さも証明されたし。これは正式採用待ったなしだね」
「これ以上肩書きを増やしてどうするんですか」
そんな助手のために手ずからココアを淹れているのが、この調査所の所長――七海だ。助手と所長にしては、相変わらず立場も態度も距離感もおかしいが、それをツッコんでくれる人物はこの場にいない。
「名刺まで勝手に作って……」
心底呆れたというような七海の溜息に、五条はムッと唇を尖らせる。五条としては、割と本気の見解だったのかもしれない。
「……引退したあとの生き方を一緒に考えてくださいって、オマエが言ったんだろ」
拗ねたような五条の声に、おやと七海は片眉を上げる。五条の不機嫌の理由は、どうやら、七海の想像とは違うらしい。
「アレ、プロポーズだと思ったんだけど。違った?」
椅子に座る五条と立っている七海では、必然的に上目遣いとなる。そうでなくとも、術式の影響か何なのか、水分量の多い青い目に頗る弱い自覚が、七海にはあった。経験則として。
「違いません。勿論、プロポーズです」
五条の前にココアのマグカップを置いて、自由になった右手で髪を梳くように頭を撫でる。すると不機嫌を装うとする五条の努力も虚しく、彼の口角は上がっていく。ゴキゲンな猫のようで可愛らしい。
「夫の独立開業を手伝おうとしてるんだよ、僕って健気でしょ」
「ええ、そうですね。ありがとうございます」
「次の依頼はいつになるかな。あんまり閑古鳥が鳴いてちゃ寂しいよね」
「……まあ、それはそれで。平和ということでしょう」
「こうして二人きりにもなれますし」と見下ろした旋毛にキスすれば、五条は花が綻ぶように笑った。