幕間

随分と寝た気がする。
五条が目を開けると、視界はやはり闇に埋め尽くされたままだった。ぬるま湯につかっているような温かさも変わりない。
ぼけっと何も見えない周りを見渡しながら、五条はそういえばと思考を巡らす。充分な睡眠をとったお陰か、五条の頭の中はスッキリと晴れていた。
みんなはどうしているだろうか。脳裏に浮かぶのは教え子たち、腐れ縁と後輩と、あとは面識のある術師や補助監督だ。特に大人たちは誰も彼も、目の下に隈を住まわせて、こと・・の後処理に追われていた。もちろん五条もその一人だ。
自画自賛となるが、残された術師の中で五条は人一倍に働いていた。等級が一番高い成人済みの術師ということで、以前の繁忙期を超えそうな、まさに八面六臂の働きを見せていたのだ。そんな五条がこんなところに閉じ込められて、現場は大丈夫だろうか。
五条とて、何もダラダラと過ごしていたわけではない。これでも最強の役目を放棄するつもりはないから、元に戻れるように手を尽くしていた。しかし蒼も赫も、取っておきの茈までも使えなかった。撃てなかったのだ。
術式がある・・のは視える。自身の体内を呪力が流れているのもわかる。六眼が使えているということは、呪力を扱えなくなったというわけでもない。なのに。
五条は「あー」と無意味な呻き声を上げながら、地面に寝転ぶ。そう・・したいと思った瞬間に、背中が何か硬いものに受け止められた。無から地面が生えてきたのかもしれない。
目の前で掌印を結ぶ。しかし体に巡る術式は微動だにしない。無限は収束も発散もせずに五条の周りに在るだけで、こんなことは初めてだ。何故と思考を続けようとするも、背中から伝わる温かさで五条の意識は薄れていった。