京都の五条本家と比べれば随分と小ぢんまりした造りだが、高級住宅街の中でも一回りは大きく、人目を引くお屋敷だ。家入は匿うだとか言っていたはずだが、これでは自ら的になりにきているようなものではないか。
やはり体の良い厄介払いだろうかと思うも、昏々と眠り続ける五条が目に入って、七海はその卑屈な考えを振り払う。七海一人なら厄介払いも有り得るだろうが、五条までもということはないだろう。残念ながら、五条はまだまだ必要とされてしまう人間なので。
雑念を振り払うように溜息を吐いて、七海はあてがわれた部屋を見渡した。自身の荷物を片付けてしまえば、七海にはもうやるべき事がない。手持ち無沙汰だ。あくまで七海の任務は五条の護衛だから、屋敷の管理のための人員は五条家が用意したらしい。五条の側に張り付けるように七海の世話もやってくれるらしいから、ますます暇を持て余してしまう。七海は渋々と重い腰を上げた。
五条のためにと設えられた日当たりの良い部屋の片隅で、七海はただ黙り込んでいる。五条はそんな七海に目もくれずに窓の外を眺めていた。高専にいるのとどちらがマシだろうかと、七海は不毛なことばかり考えてしまう。
五条が目の前にいるのに、部屋は静寂に溢れている。それがまた七海には耐え難く、とうとう、五条と再会してから避けてきたことを行動に移した。
「五条さん」
七海の声に反応して、五条は振り向く。しかし以前なら淀みなく流れ始める軽口はなく、瞬きもせず、五条は七海を見つめるだけだ。五条と視線は合うが、目の前にいるのが七海だと認識しているのか、あるいは認識できる意識があるのかすらわからない。
不毛だ。不毛なことばかりだ。自分が死に損なったこともと考えかけて、七海は頭を振る。それだけは、考えてはいけないことだった。
呼んだきり、何もしてこない七海に興味を失ったのか、五条は再び窓の外に目を向けている。無表情なその横顔には生気が感じられない。いっそ呪霊を祓っているときのほうが生き生きとした表情を見せていた。穏やかな、と称するには語弊がある凪いだ顔だ。
しかしもしかしたら、それこそが五条の本性なのかもしれない。最強の呪術師として先頭に立たねばならず、そのせいで気を張っていたのかもしれない。
「五条さん、何を見ているんですか」
振り向きはしても、五条が声を発することはない。当然、予想できていたことだ。けれど予想よりも深い虚しさに襲われて、七海はそっと五条から目を逸らした。