寝転んだままだった上体を起こして、五条はグッと伸びをした。硬い地面で寝たにも関わらず、体に不調は感じられない。もしかしたら獄門疆のように、五条の閉じ込められているこの場には時間経過がないのかもしれない。
空腹と、それによる衰弱はなさそうなのが救いだ。だからといって希望的観測を持つことは難しいのだが。
勢いをつけて立ち上がって、ついでに、踝を軸に足をぐるりと回す。一寸先どころか直に闇に触れているような状況で、足を踏み出すのはどれほどの危険を孕むのだろうか。メリットとデメリットが五条の脳内の天秤を揺らす。
無下限が使えれば気にせずに飛び出せるのにと考えて、五条の口元は思わず緩んだ。今まで怪我の可能性すら排除してきたのだ。そんな五条にとって、こうもアレコレと考え込むこと自体が久しぶりかもしれない。場違いにも和んでしまった。
両頬を押して緩んだ口元をむにと変形させて、五条は気を引き締め直す。暖かく暗い空間というのは、気持ちまで緩んでしまうのがいただけない。
いざ一歩を踏み出そうとして、五条は異変に気付いた。足が動かない。
今さっきまで自由だった足は接着剤を塗ったようで、靴すら脱げずに立ち往生となっしまった。二度三度と検分しても、六眼をもってしても、五条の足に異常は見当たらない。ただ動かないだけだ。
「……嘘だろ」
途方に暮れた五条の呟きに返事をするものはいない。ただ虚しく響くだけだ。