SS 金茶と緑/白と水色

五条の家には同居人がいる。正確には人でなく、五条が抱き上げても大きいと感じられるサイズの熊のぬいぐるみだ。名前はクマちゃんという。
可愛い教え子に押し付けられたそれは金茶の毛並みと緑の目をしていて、思わず自宅に連れ帰ってベッドの上を定位置にしてしまった。
そうして月に何度か、クマちゃんには大事なお役目が回ってくる。たとえば今日だ。
七海に逢えなくて寂しくて、少しずつ気分が落ちていっているのを自覚すると、五条はクマちゃんを抱き枕にする。これはクマちゃんと五条の秘密だ。
今度、七海の愛用する香水を教えてもらおうかと、五条は夢現に考えた。

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それと目が合ったのは運命だったのかもしれない。後に七海はそう語る。
汚れの目立ちそうな真っ白な体に淡い水色の目をしたテディ・ベアは、ファンシーなセレクトショップの店頭に置かれていた。どっしりとしたサイズのその熊は、七海が抱えても存在感を放ちそうな大きさをしている。
あるいはこれが、クレーンゲームのガラスの内側なら、七海も諦めざるを得なかったかもしれない。けれど店の扉横の椅子にデンと置かれた熊は、レジに持っていけばすぐに手に入ってしまう。
フワフワな毛並みが五条に似ている気がして、そう思ってしまったことで七海は観念した。
斯くして、七海の家にも同居人がやって来た。