とすれば、手土産は甘いもの以外がいいだろうか。けれど七海は、五条が好きなものを幸せそうに食べる姿を見ていたいとも言っていた。はてさて。
爽やかな酸味のチーズケーキ、ビターチョコが大人な風味の生チョコケーキ、目にも鮮やかなフルーツタルト……そういえば、以前横流ししたイチゴは喜んでいた。同じものを食べるのもいいが、五条は違うものを食べて一口ずつ食べさせ合うのも好きだ。ならばクリームたっぷりのショートケーキは外そうか。
恋人と楽しめると思えば、ケーキ一つ選ぶのでも心が踊るようだった。
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七海は気分に合わせるために、産地やら焙煎度やらの違う数種類のコーヒー豆を常備している。時々は自家焙煎にも手を出している。
その七海のコレクションの中、この頃は深煎りばかりが減っていた。言わずもがな、五条のせいである。
大の甘党である七海の恋人は甘いクリームたっぷりのお菓子を好むから、一緒につつく七海のお供にはコーヒーが欠かせない。特に深煎りだ。
ストックが無くなりそうな豆の存在を思い出し、七海は帰宅途中の足を止めて、馴染みの店の扉をくぐった。
何気ない日常の一コマでも恋人を想うだけで七海の心はじわりと温まるようで、成程、恋は人を変えるとはよく言ったものだ。