クリスマスケーキと言われれば、ケーキの上の砂糖でできたサンタを思い浮かべてしまう。五条にとっては砂の塊のようなものだったが、だからこそ、本来の甘い砂糖のサンタ人形に憧れを抱いていた。
けれど五条専属のパティシエは、絵心だけはイマイチなので。しかもそれを欠点だと思っているフシがあるから、五条はそういったリクエストをしたことがない。二人の間の暗黙の了解のようになっていた。なのに。
「七海!」
ご丁寧に箱に入っていたケーキを取り出した五条は、思わずはしゃいだ声を上げる。箱の中にはリクエスト通りのブッシュ・ド・ノエル。と、その上のデコレーションに埋もれるように、サンタとトナカイの砂糖菓子が乗せられている。少し曲がったサンタの帽子とへにょりと情けなくも見える笑顔が、七海の手作りだと証明している。
「かわいい! どうしたの、コレ」
「たまには練習しようかと思って作ったんです」
七海は「最初から用意してありました」とでも言うような口振りだ。しかし周りのデコレーションの崩れ具合からすると、砂糖菓子の一人と一匹は急拵えのものなのだろう。きっと、昨日の五条があんまりな表情をしていたせいだ。
小振りなケーキを、片方が僅かに大きくなるように七海はナイフを入れた。大きく切ったほうに二つの砂糖菓子を偏らせるのも忘れていない。そうして当然のようにサンタとトナカイを譲られて、五条は少しばかり考えてから、七海の皿にトナカイを移した。七海は何か言いたげに口の端をもぞもぞと動かす。
「一緒の食べるともっと美味しいよねぇ」
「……まあ、そうですね」
七海の何かは音にならず喉の奥に仕舞われて、代わりに満更でもない笑顔が浮かべられた。