店頭のものより二回りは小さいシュトーレンを、七海は必ず二種類作る。フィリングの割合の違うそれらは、回を重ねるごとに五条の好みに近付けられている。そんな細やかな気遣いを発見するたび、五条はむず痒い気持ちになった。
「……最後かあ」
呟く五条の前には、分厚く残った端の部分が二切れ、皿に乗っている。シュトーレンは中央から切り出して食べていくということを、五条は七海に教えてもらった。
「イブですからね」
「……イブだもんね」
明日はクリスマス当日で、それはそれは手の込んだクリスマスケーキが用意されていることも、五条はちゃんと知っている。そのケーキももちろん楽しみだ。残業は絶対にしないと、先月あたりから職場でも幾度となく宣言している。けれど、それとこれとは別の話だから、どうしても食べ終えるのが勿体なく思えてしまう。
「来年はどうしますか」
「もう来年の話ぃ? 七海は気が早いね」
「アナタが寂しそうな顔をしているので」
笑い含みに言われては、五条は反論もできない。勿体ないという思いが表情に出ていた自覚はある。
「……来年は、ドライフルーツ多めのも食べたい」
「いいんですか? ナッツのほうが好きでしょう」
言葉以上に七海は驚いたと顔で語っている。そこまで思われるほど、五条は普段から我儘放題していただろうか。していたかもしれないが。確かに、食に関しては食感を重視する五条だが、それはあくまで市販品に限った話だ。何より。
「……オマエはドライフルーツのが好きだろ」
改めて言葉にすると照れ臭さを強く感じて、五条の視線はテーブルに落ちる。その様子を対面に座る七海に微笑ましげに見つめられている気がして、五条はなかなか顔を上げられなかった。