七海のパティスリーはクリスマスを過ぎたら営業時間をグッと短くして、一般企業の仕事納めと同じくらいに年末休みに入る。年始の仕事始めも随分とゆったりしていて、大体、五条の職場の緩い仕事始めと近い日程になるらしい。
年末の休暇中は慌ただしく、二人は大掃除と正月料理の準備に明け暮れた。料理において戦力外となる五条は、七海の城であるキッチン以外の大掃除を主に担当していた。普段しない箇所の掃除は中々の体力仕事だ。けれど年始をさっぱりと、そうして二人でゆっくり過ごすためと思えば、やる気も湧いてくるというものだ。
そうして迎えた元旦、五条は七海の用意したお雑煮の味付けに驚きを隠せなかった。七海が昨年作ったお雑煮はいわゆる関東風で、対して、食べた記憶も少ない五条の実家の味は関西風だった。五条の母が京都出身らしい。
「このお雑煮って……」
五条は一度、七海を連れて実家に帰省したことがある。七海がどうしても挨拶をしたいと言って聞かないからだ。その一度の挨拶で、五条の母と七海は、五条の父と五条自身が驚くほど打ち解けた。今でも連絡を取り合っているのだと言う。
「アナタのお母さんに教わりました。私が作ったなら、ちゃんと味わえるからと」
「……そっか」
声は震えなかっただろうか。汁椀を持ち上げる手は震えてしまった気がする。手に力を込め直して、その中身を一口啜る。白味噌の甘みというものを、五条は初めて感じられたのかもしれない。
「おいしい……」
今度ばかりは声も震えただろう。母と七海、二人の思い遣りを溶かし込んだような温かさで、胸も喉も詰まってしまいそうだった。七海はそんな五条の態度に言及するでもなく、「それは良かった」といつも通りの返事をした。