カップケーキ

今日のデザートはカップケーキだ。しかも、ホイップクリームの上にマジパンで作られた動物が二つも乗っている豪華版だ。
一つは七海不在時の五条のお供「ケントくん」、もう一つは五条不在時の七海のお供「サトルさん」を模している。ケントくんは緑の目と金茶の毛並み、サトルさんは水色の目と白色の毛並みをしたテディベアだ。
プロの技巧により作り出された二つは本物と見紛うような出来栄え、と言いたいところだが、現実は非情だ。何というか可愛くない。クリーチャーというわけではないが、絶妙に、上手ではない。本物と見比べると思わず首を捻ってしまう出来栄えだ。
七海自身も、その微妙な出来栄えを自覚しているのか、現在販売しているケーキにはマジパンの人形を乗せていない。客の要望があっても乗せないという徹底ぶりだ。つまりはこのマジパンも五条専用というわけで、五条からしたら二つとも三割増しに可愛く見える。
マジパンをつまみ、目線の高さに近付けて、五条は穴が空くほど見つめる。ロウソクくらいなら溶かせそうな熱視線だ。
出来ればゆっくりと何口かに分けて味わいたいが、頭がなくなったり胴体がなくなったりしているのも可哀想に思えてしまう。五条は意を決して一口で食べた。
「おーいしー!」
サトルさんはバニラの甘い香りが際立って、ケントくんは後味のレモンの香りが爽やかで美味しかった。色味に合わせて味を変えるなんて、やっぱり七海の製菓スキルは熟練の域にある。見た目はおいといて。
マジパン付きのお菓子をリクエストすると、五条が食べている間、七海は居心地の悪そうな顔で黙り込んでしまう。きっと見た目の出来を気にしての態度だろうけれど、そんな七海の反応を見ると、五条はまたマジパンをリクエストしたくなってしまうのだ。