旬の時期に目一杯買い込んだ小粒で不揃いなイチゴたちは、大きさも揃えずにゴロゴロとしたままにジャムになる。パンには塗りにくいけれど食べ応えのあるイチゴジャムは五条のお気に入りで、小腹がすいたときなどはこっそりと失敬しているほどだ。おそらく七海にはバレているけれど。
ヨーグルトもジャムも、いつもどおりに美味しい。五条の好みに合わせて甘めに作られているジャムは、さっぱりとしたヨーグルトとの相性も抜群だ。なのにイマイチ味気ない。
答えは簡単、目の前に七海がいないからだ。
七海は昨日から実家に帰省していて、戻ってくるのは明日の昼頃だ。だから、五条の向かいの席には七海不在時用のぬいぐるみの「ケントくん」がちょこんと座っている。
律儀にも、七海は五条のためだけのデザートを用意していった。昨日と今日の二日分だ。
昨日は、それでも何とか気分を下げずにいられた。低空飛行ではあったが沈んではいなかった。でも今日はダメだ。
こんなに美味しいのに美味しいと思えないなんて、食材にも、作ってくれた七海にも失礼な気がする。けれど一度落ち込んだ気分は中々上がらなくて、溜息ばかりが量産されていく。照明の光を受けてつやつやと輝くイチゴジャムが、いつもより眩しく見えた。
それでも、七海お手製のデザートを出されれば食欲は湧いてくる。ちびりちびりと、いつもより味気なく感じるヨーグルトを食べ終えて、五条は椅子の背もたれに身をあずけた。重力に逆らわずにいると、気持ちと同様に体が沈み込んでいく。
「僕って、七海に依存し過ぎかなぁ」
七海よりも透明度の高いケントくんの目を見つめても、応えが返ることはなかった。