四角い卵焼き器を駆使して作られていく様子は、まるで魔法か何かのようだった。やってみたくてウズウズとしていたら、七海は呆れたような顔をしながらも、コンロの前を譲ってくれた。突発的に開催された教育番組は、初めてにしては上出来といえる結果で終わった。少し厚みがあるのはご愛嬌だろう。
生地を垂らして焼いて巻いてギュッと抑えて……を何回も繰り返してふっくらと育ったバウムクーヘンは、最後にたっぷりのシュガーグレーズを纏えば出来上がりだ。砂糖の甘みと抹茶の苦みの混じった香りは焼いている間からずっと漂っていて、五条はその香りを嗅ぐだけでソワソワとしてしまう。まるでパブロフだ。
皿に盛り付けられたバウムクーヘンを、満を持してフォークで切る。外側のグレーズには真冬の池の氷のように細かなヒビが入り、内側のバウムクーヘンは羽毛のようにほわほわと分かれていった。五条にしては控えめな一口を、そっとフォークの上に乗せて頬張る。
「おいしー!」
厚めのグレーズは口に入れればシャリシャリと溶け、グレーズに合わせて抹茶を多めにしてある生地はまだほんのりと温かく、ふかふかとしながらもしっとりとしている。甘みと苦みのバランスが絶妙だ。
円柱が半円柱になるまで食べ進め、五条は一息ついた。あと半分も食べられるというワクワク感と、もう半分も食べてしまったというガッカリ感がせめぎ合う。
「そういえば、チョコソースがあるんですが」
「えっ、食べたい!」
「じゃあ持ってきますね」
思いがけず弾んだ声に、五条は子供っぽすぎる反応をしてしまったことを自省する。けれどもチョコソースと聞いた途端に上向いた気分は隠しようもなく、あと半分しかないとガッカリしていた気持ちは、五条の心には一欠も残っていなかった。