スノーボールクッキー

今日のデザートはスノーボールクッキーだ。いつもはココアパウダーを纏っていて雪玉とは呼び難い見た目をしているが、この日は違った。
「……真っ白だ!」
「スノーボールクッキーですから」
四角錐に積まれているスノーボールクッキーはさながら月見団子のようだが、五条が驚いているのはその積まれたクッキーが白いことだ。恐る恐る、崩さないように頂点のクッキーをつまんで、口の中に放り込む。
「……甘い」
「粉砂糖ですから」
じんわりと溶けていく粉砂糖は、そのまま、七海が掛けた手間暇を表している。そう思えば、五条はうっかりと涙が滲みそうになってしまって、慌ててギュッと目頭に力を入れる。七海はきっと、五条の喜ぶ顔が見たくて作ったのだろうから。
「ちゃんと甘い、おいしい……」
「それは良かった」
スノーボールクッキーなんて一口で食べ切ってしまう。せめて少しでも長く白い山を残しておきたくて、五条の手の伸びる速さは段々と遅くなる。
「……五条さん、またいつでも作りますから」
見かねた七海に促されて、止まっていた五条の手がようよう動き出す。そうして跡形もなく白い山がなくなって、粉砂糖の僅かに残る皿の底を五条はじっと見つめた。もっと食べたいという気持ちと、七海に手間を掛けさせるのも申し訳ないという気持ちが、五条の心の中でぶつかり合っている。
「七海、あのね、僕いつものも大好きだから。面倒だったらココアで大丈夫だよ、ホントに」
五条の中で、申し訳ないという気持ちが勝った。けれど。
「私はアナタを甘やかしたいんです。だからそうやって申し訳無さそうな顔をされても嬉しくありません」
七海のほうがずっと悲しそうな顔をするものだから、五条の中での勝敗はくるりと引っくり返ってしまうのだった。