お汁粉

今日のおやつはあんこを使った何からしい。キッチンからは、嗅ぎなれない甘い匂いが漂ってきている。
三箇日の最終日、五条が起きたときには既に、七海はキッチンに立っていた。何をするのかとソワソワとした五条はキッチンとリビングを行き来して、見かねた七海に待機を命じられる程だった。渋々とリビングに戻った五条は、それでも往生際悪く、カウンター越しに七海の様子を窺っていたが。
何回もアク取りをする七海を、五条は首を目一杯に伸ばして見守った。随分と時間を掛けているなと五条が感じたあたりで火は止まり、七海は鍋の中身を掬う。そのあたりで、七海が何を作っているのかを五条は理解した。
「粒あん?」
「そうですね、苦手ですか?」
「オマエの手作りなら好きだと思う」
餅に絡めるのか、お汁粉か。想像するだけでワクワクしてしまう。しかも今年のために用意された餅は、七海が蒸すところからやったという念の入れようだ。
「お汁粉? それともあんこ餅?」
「アナタはどちらが好きですか」
「僕はね、……お汁粉かなあ」
「ならお汁粉にしましょう」
たっぷりのあんこに浮かぶ白い餅を思い浮かべて、五条の頬は緩む。甘い豆とはどんな味がするのか、想像だけでも楽しくなってきた。
「小倉トーストも食べてみたいな」
「たくさん作ったので色々楽しめますよ」
「マジか。悩むなあ」
火に掛けられているのは大きめの片手鍋だ。確かに、二人で食べるには多過ぎるといえる量が作れるサイズだ。おはぎ、大福、どら焼き、季節ではないが柏餅なら出来るだろうか。浮かれた気分は鼻歌になって五条の口から漏れていく。
「楽しみだなあ」
思わず零れた呟きは予想よりも大きく響いたのか、七海の口元は緩く撓んだ。