ほんのりと温かいブラウニーは、周囲にチョコレートの甘い香りを振りまいている。溢れるように乗せられたナッツを落とさないように持ち上げて、ザクッとガリッを混ぜたような音をさせて、五条はブラウニーを頬張った。
断面図にも見えていたが、中までクルミとアーモンドがたっぷりと詰まっていて、噛むごとにどちらかの香ばしい風味が口の中に広がる。それが濃厚なチョコレートとまた合うのだ。
「おいし〜」
「そうですか」
「そういえば、悠仁くんのオススメはコレだって」
「……そうですか」
ブラウニーを勧めてくれた少年は人懐こい笑顔が印象的で、五条の出会った、他のバイトの少年とも少女とも友達らしい。その性格のお陰でついつい話が弾んでしまい、店頭に出てきた七海に窘められた程だから、少年には悪いことをしてしまった。
他の子と同じくオススメを聞けば、少年はガラスケースの中ではなく、その上の焼き菓子を指差した。二つ買って一つを押し付けて、「七海には秘密」と内緒話のトーンで言うと、少年もイタズラを楽しむ顔で笑い返してくれた。厨房のガラス越し、呆れたような表情の七海と目が合ったから、バレてはいるだろうけれど。
「……五条さん、誰にでも優しくするのは危ないですよ」
やっぱりバレていたようだ。けれど五条にも言い分はある。
「でも、悠仁くんは七海の知り合いだし、七海のお店でバイトしてるんでしょ?」
「まあ……そうですが」
「じゃあ優しくするでしょ。七海のことよろしくねって」
五条がパチリとウィンクを添えたら、七海は険しい顔を取り繕って黙り込んでしまった。