ウィークエンドと名付けられたそのケーキを、七海は律儀に土日に焼くことが多い。特に、五条が深夜に及ぶ残業を片付けた翌日、惰眠を貪ったあとの食卓によく上がった。七海からの労いなのだろう。
天辺をアイシングとレモンピールで飾り付けられたそのケーキは、どっしりと重たそうに見える。しかし食べてみればふわりと軽く、アイシングと相俟って溶けていくような食感だ。レモンの風味がそれを後押ししている。
「おいしー!」
「それは良かった」
「疲れた体に染みる!」
「クエン酸の疲労軽減効果ですね」
「いやいやいや、それだけじゃないでしょ。七海の愛情もたっぷり詰まってるでしょ」
茶化すように言えば、七海は一瞬目を丸くさせてからそっぽを向く。その耳は薄っすらと赤くなっていた。普段から臆面なく愛の言葉やらを口にするくせに、七海は、言われることにはちっとも慣れない。
五条としてはそんなところも可愛くて仕方ない。が、いい加減に慣れてほしいというのも本音だ。隙を見つけて折に触れて色々な言葉を投げ掛けているが、慣れる様子のない七海は中々に手強いといえる。気持ちを落ち着かせるためか、七海は長い溜息を吐く。
「そうですね」
「でっしょー?」
七海の耳の赤さは引いたが、二人の視線が交わることはない。カッコつけたがりの年下の恋人の可愛らしさに、五条は一層と笑みを深くした。