ブルーベリータルト

今日のデザートはブルーベリータルトだ。つやつやとしたブルーベリーが整然と並ぶ姿を見て、五条は一人の少年を思い出した。
五条が通い始めて半月ほど経った頃、七海のパティスリーにはイートインコーナーが出来た。二人掛けテーブルが三組しかないそこは、席同士の間隔は広く取られて日当たりもよく、休憩所として重宝されているらしい。
ということを、イートイン増設にあたり雇われたバイトの少年から聞いて、五条は初めて知った。ちなみにその時点で増設からひと月は経っていたらしいが、何せ五条は興味がなかったので。
視界の端でインテリアが増えているな、くらいにしか思っていなかった。
「これ、恵くんのオススメだよね」
「……そうですね」
つやつやのブルーベリーとそれを囲うホイップクリーム、中のカスタードクリームにタルト生地をきっちりと掬って、一口で食べる。
「おーいしー!」
ブルーベリーが甘酸っぱくて、カスタードクリームは甘くってホイップクリームは甘さ控えめで、そこにタルト生地の少しの塩気があわさってバランスが最高だ。美味しいと感動する気持ちのままに食べ進める五条が思い浮かべるのは、件の少年だ。
ニコリともしない態度は接客業向きではないように思えたが、五条には懐いてきた。初対面なのにと疑問を抱きつつも五条も満更ではなく、オススメを尋ねたらブルーベリータルトと答えてくれた。それ以来、ブルーベリータルトを見ると、何となく思い出してしまうのだ。
「五条さん、美味しいですか?」
「え、うん、美味しいよ?」
唐突な問いかけに面食らいつつ、「今回のもすっごく美味しい」と力強く重ねて言えば、七海はどこか満足したように頷いた。その態度を不思議に思いながらも、五条はブルーベリータルトを堪能することに専念した。